だが、ほぼ同時に女子トイレから出てきた女子生徒を認めて動きが止まる。都市研の面々は既に立ち去ったはずだ。ならばこの女子生徒は一体?あまりの事に動作と共に思考も停まる。

 向こうも驚きの表情を浮かべてこちらを見つめている。見たことの無い生徒だ。そもそも制服が違う。この学校の制服はブレザーだが、彼女が着ているのは誰が見てもわかるオーソドックスなセーラー服だ。

「アンタ誰よ」
女子生徒は驚きから立ち直るとムッとした表情でそう尋ねた。
「幽霊?」
その応えは彼女の問いに答えたものではなく、思わず口から漏れた言葉だった。
「何言ってんの、アンタ生きてるでしょ。それともなに?私が幽霊かって訊いてんの?先に質問したのは私、質問があるなら答えてからっていうのが礼儀でしょ」
そう馬鹿にしたような顔でまくし立てる女子生徒は、長い黒髪に透き通るような青白い肌に妖しい美貌。この真夏に冬服というのも怪しい。元気に話してさえいなければすぐさま幽霊と断定したくなるような風貌だった。月明かりに照らされた廊下が、心なしか先ほどより蒼い。
「望月硬平」
状況に適応したわけではないがとりあえず正直に答える。すると彼女は今度はとても嫌そうな顔をした。

「もちづき〜?」
質問をしておいて素直に応えてみればこれだ。まずます彼の幽霊のイメージからかけ離れていく。やはり幽霊というわけではないのだろうか、さすがの彼も些か好奇心を覚えた。
「君は?」
夜更けの学校で出会った幻想的な美少女。彼女は少し考える素振りを見せてからもったいぶった様子で口を開いた。
「私は・・・トイレの花子さん、ってことにしておくわ。さっきの子達が言ってたの私のことだろうし」
噂の火元は彼女ということか。しかし彼女が何者なのか、その答えにはなっていない。
「どこの生徒?」
その至極当然と思われた問いに、彼女は明らかに不機嫌な表情を浮かべた。
「ここよ。文句ある?」
いちいち要領を得ない。彼の訊き方も悪いのだろうが、彼女がこの学校の生徒であるとしても、何故わざわざ他校の制服、それも冬服を着て深夜の学校に潜り込んでいるのか。

 見下したような態度の自称花子さんを見つめながら、彼は色々と合理的な理由は無いかと考えたが、それもすぐに諦めた。どうでもよくなったのだ。
「まぁいいや、君も用が済んだら早く帰ったほうがいいよ」
そう告げて脇を通り抜けようとした。
「ちょっと、待ちなさいよ」
そう言って彼の腕を掴んだ花子の手はゾッとするほど冷たかった。全身に悪寒が走り頭ではなく魂で理解した。この子は生きていないと。
「人と話すなんて久しぶりなんだから、もうちょっと付き合って」
嫌な汗をかいた。明確な言葉ではないが様々な思考が浮かんでは消えた。どれも心地の良いものではない。
「何よ、もしかして私が怖いの?」

 
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